鈴木紘平
出版した論文の一部の日本語訳です。行政制度の国際比較、日本の地方自治体を対象に、公務員の任用制度、政治的影響、行政イノベーション、新公共経営、ジェンダー効果等について研究をしています。各研究について詳しく知りたい方、インタビュー、講演依頼等はメールでご連絡ください。
1)官僚機構、公務員制度の比較研究
公平性で充分か?政府の公平性と公共サービスの質に対する市民認識 (Mehmet Akif Demirciogluとの共著)
Suzuki, Kohei, and Mehmet Akif Demircioglu. "Is Impartiality Enough? Government Impartiality and Citizens’ Perceptions of Public Service Quality” Governance: International Journal of Policy, Administration, and Institutions.
要約: 政府の意思決定における公平性は良き政府の質 (quality of government) を決める中心的な概念で、マクロレベルの多くの指標で良い結果につながると先行研究結果で示されてきた。しかし、政府の公平性が公共サービスの質に対する市民の認識にどのような影響を与えているかについての先行研究は限られている。特に、経済・社会的背景が異なる市民の間で、どのように公平性が公共サービスの質に対する認識に影響を与えるかは分かっていない。本研究では、欧州174地域の56,925人の市民を対象とした欧州政府の質指標データを用いた分析の結果、公平性のみでは公共サービスの質の向上にはつながらない、社会的弱者の間では公平性は公共サービスの質の低下につながることが分かった。これらの結果は、市民が政府の公平性から平等に恩恵を受けてはいないことを示唆している。
公務における政治化、法律尊重主義、革新的態度 (Victor Lapuenteとの共著)
Lapuente, Victor, and Kohei Suzuki. 2020. "Politicization, Bureaucratic Legalism, and Innovative Attitudes in the Public Sector." Public Administration Review 80 (3):454-467.
要約: 先行研究は公共部門のイノベーションを促進する制度的、組織的、個人的な要因を特定してきた。しかし、官僚機構の種類や官僚の属性と革新的な態度との関連は見落とされてきた。本論文では、ヨーロッパ19ヵ国の官僚機構と上級公務員の大規模比較データを用いて、官僚機構における政治的影響力と法律尊重主義といった要因が上級公務員のイノベーションに対する態度とどのように関連しているかを検証した。分析の結果、政治的影響力の強い官僚機構で勤務する、法律学の教育を受けている上級公務員はイノベーションに対する意識が低いことが分かった。
ヤギか狼か?民間部門からの幹部公務員 (Victor Lapuente, Steven Van de Walleとの共著)
Lapuente, Victor, Kohei Suzuki, and Steven Van de Walle. 2020. "Goats or wolves? Private sector managers in the public sector." Governance 33 (3):599-619. doi: 10.1111/gove.12462.
要約: 行政改革により、公共部門における民間部門のマネジメントスキルの活用や、民間部門のバックグラウンドを持つ管理職採用が増えている。こうした動きによって、民間経験者の採用が結果志向、効率性、イノベーションに対する態度等を公共部門に持ち込み、公共部門の業績に良い影響を与えるという意見と、民間企業の経験や公正性、公平性等の官僚機構の中核的な価値観を損なう可能性があるとする意見の間で議論が生れてきた。しかし、数多くの逸話的な証拠はあるが、民間部門での経験が公務員の価値観に与える影響についての実証はまだ限られている。本研究では、欧州18カ国の中央政府の上級公務員を対象としたデータを用い、民間部門での経験を持つ上級公務員ほどより中核的な経営的価値観を持っていることが分かった。しかし、従来の見解とは異なり、民間部門経験は公正性、公平性等の公共的価値観を損なうことはないことが分かった。
官僚機構の性質と公務員の組織コミットメント:ヨーロッパ20ヵ国を対象とした比較研究結果(Hyunkang Hurとの共著)
Suzuki, Kohei, and Hyunkang Hur. 2019. "Bureaucratic structures and organizational commitment: findings from a comparative study of 20 European countries." Public Management Review:1-31. doi: 10.1080/14719037.2019.1619813.
要約: 本研究は「政府の質」研究所の専門家調査データ及びヨーロッパ20ヵ国の上級管理職公務員調査データを用い、官僚制度と公務員の組織コミットメントの関係性を検証した。「善き統治」(グッド・ガバナンス)についてのこれまでの実証研究ではヴェーバー型官僚制度とマクロレベルでの社会経済効果との関係性が検証されている。しかし先行研究では官僚制度の類型と公務員個人の意識や態度との関係については分析が行われておらず、公務員の組織コミットメントの程度やタイプについて国家間で違いがあるかどうかは分かっていない。本研究は、社会的交換理論を用い、ヴェーバー型官僚制度の特徴の一つである公務員の任用・昇進制度の閉鎖性と組織コミットメントとの関係性を分析した。研究結果から、任用・昇進制度の閉鎖性と組織コミットメントとの間で高い相関性が確認できた。
公共部門と民間部門における実績主義に対する市民の認識 (Hyunkang Hurとの共著)
Suzuki, Kohei, and Hyunkang Hur. 2021. "Revisiting the old debate: citizens’ perceptions of meritocracy in public and private organizations." Public Management Review:1-25. doi: 10.1080/14719037.2021.1895545.
要約: 行政学・公共経営においては、長い間、公共部門と民間部門の違いは議論されてきた。これまでの研究結果の積み重ねにより、公共部門と民間部門は様々な点で性格が異なることが分かったきた。しかし、先行研究は1ヵ国を対象とした研究が中心で、複数国を対象とした研究が不足し、実証結果の一般化には限界がある。本研究では、欧州21カ国の市民を対象としたデータセットを用いて、公共機関と民間企業における実績主義(運やコネではなく、努力で成功を収められると思う度合い)に対する市民の認識を比較し、そのようなセクターの違いが国レベルのマクロ要因とどのように関連しているかを検証する。研究の結果、ヨーロッパの大半の地域で、実績主義に対する市民の認識は民間部門の方が公共部門よりも高いことが分かった。特に、国レベルの官僚機構でNew Public Managementが根付き、実績主義の原則が確立されている国では公共部門と民間部門の差は少なく、そうではない国では差が大きいことが分かった。
2)日本の地方自治体を対象とした研究
女性議員・管理職比率とリスク回避型の財政判断について(Claudia Avellanedaとの共著)
Suzuki, Kohei, and Claudia N. Avellaneda. 2018. "Women and risk-taking behaviour in local public finance." Public Management Review 20 (12):1741-1767.
要約: 本研究は日本の764市において女性首長、議員及び公務員管理職比率と自治体の財政判断との関係を分析することを目的とする。研究の結果、地方議会で女性議員比率が高まると公債発行額、公社・公団・公営企業体への投資額は低くなり、リスク回避型の財政判断が行われやすいことが分かった。しかし、女性首長・副首長と女性中間管理職と財政判断との間に統計的に有意な関係は確認できなかった。本研究は女性議員比率が最も低い先進国である日本を対象に女性管理職比率と財政判断についての既存理論の検証を行ったものである。
歳出削減と住民ボランティア活動について(単著)
*2017年度Asia Pacific Journal of Public Administration 最優秀論文賞受賞
Suzuki, Kohei. 2017. "Government expenditure cuts and voluntary activities of citizens: the experience of Japanese municipalities." Asia Pacific Journal of Public Administration 39 (4):258-275.
要約: 世界経済危機に対応するため多くのOECD加盟国政府は歳出削減を実施している。一部の政府は緊縮財政下で公共サービスを維持するための手段として住民のボランティア活動への依存を強めている。しかし、歳出削減が住民ボランティア活動にどのような影響を与えるのかを考慮した上で、そうした政府の住民活動への依存に関して包括的な研究は行われていない。本研究では、604市町村の地域計画課・住民課へのアンケート調査データを基に自治体の歳出削減は住民ボランティア活動を誘発する効果を持つのか、抑制する効果を持つのか分析を行った。研究の結果、自治体の歳出削減は住民ボランティア活動の増加(誘発効果)と関係することが分かった。
市町村合併と人口変化 (Kentaro Sakuwa との共著)
Suzuki, Kohei, and Kentaro Sakuwa. 2016. "Impact of municipal mergers on local population growth: an assessment of the merger of Japanese municipalities." Asia Pacific Journal of Public Administration 38 (4):223-238.
要約: 行政改革の一つの手段として多くの国で自治体合併が実施されている。自治体合併の効果に関する実証研究がこれまでに多く行われているが、合併後の新自治体を構成する旧市町村が合併による効果を平等に受けているかどうかは実証検証が積み重なっていない。本研究は日本において市町村合併が人口動態に与える効果に着目し、合併効果は合併構成市町村内での人口規模によって異なるという仮説を検証する。傾向スコアマッチングを用いた分析結果では、合併構成市町村の中で最も人口規模の大きい自治体以外では市町村合併は人口変化に負の影響を与えていることが分かった。本研究結果により、合併は合併構成市町村間に平等に効果をもたらさず、小規模自治体に対しては大きなコストをもたらしていることが分かった。
住民協働(co-production)を通じた高齢者の孤独と社会的孤立への取り組み(Brian E. Dollery とMichael A. Korttとの共著)
Suzuki, K., Dollery, B. E., & Kortt, M. A. (2020). Addressing loneliness and social isolation amongst elderly people through local co-production in Japan. Social Policy & Administration. doi:10.1111/spol.12650
要約: 高齢化社会を迎えた他の多くの社会と同様に、現代日本では高齢者の孤独と社会的孤立が大きな問題となっている。しかし、緊縮財政の継続と高齢化に伴う財政負担のため、地方自治体はこの問題に対処するにあたっていくつか財政的な制約を抱えている。このため、政策立案者は高齢者の社会的孤立に取り組むため、地域社会との協働も含め、費用対効果の高い方法を模索するようになっている。本論文では、住民協働を用いた費用対効果の高い社会的孤立対策の取り組みとして、日本の2つの自治体の取り組み事例を検討する。
- オランダライデン大学行政学部助教授。日本で民間シンクタンク等勤務を経て米国インディアナ大学オニール公共環境政策大学院公共政策学博士号取得。スウェーデンヨーテボリ大学政治学部政府の質研究所研究員
- 比較官僚制、公務員の価値観・職務態度の比較研究、市町村合併 (Suzuki & Sakuwa 2017)、地方自治体における女性参画効果 (Suzuki & Avellaneda 2018) 等について研究。論文はPublic Administration Review, Governance, Journal of European Public Policy, Public Management Review等の主要学術誌に掲載。
- アメリカ中西部政治学会 官僚政治、行政、公共政策分野での最優秀論文賞受賞 (the Kenneth J. Meier Award 2023)。
- 日本の地方自治体歳出削減と住民ボランティアに関する論文で最優秀論文賞受賞(Asia Pacific Journal of Public Administration Best Article Prize 2017)。
- Public Administration Review, Local Government Studies, International Journal of Public Administration 等の学術誌で編集委員。
- 南アジア行政ネットワーク名誉会員。
出版した論文の一部の日本語訳です。行政制度の国際比較、日本の地方自治体を対象に、公務員の任用制度、政治的影響、行政イノベーション、新公共経営、ジェンダー効果等について研究をしています。各研究について詳しく知りたい方、インタビュー、講演依頼等はメールでご連絡ください。
- これまでの論文、インタビュー等の紹介、掲載
- New York Times, The Brookings Institute, Infobae, Gwangju Foreign Language Network (GFN), 日本経済新聞、毎日新聞等
- New York Times, The Brookings Institute, Infobae, Gwangju Foreign Language Network (GFN), 日本経済新聞、毎日新聞等
- 実証研究紹介Note: 自分の専門と関連する分野を中心に、最近の査読付き学術誌(英語)での社会科学の実証研究結果を紹介
- インタビュー、講演等資料
1)官僚機構、公務員制度の比較研究
公平性で充分か?政府の公平性と公共サービスの質に対する市民認識 (Mehmet Akif Demirciogluとの共著)
Suzuki, Kohei, and Mehmet Akif Demircioglu. "Is Impartiality Enough? Government Impartiality and Citizens’ Perceptions of Public Service Quality” Governance: International Journal of Policy, Administration, and Institutions.
要約: 政府の意思決定における公平性は良き政府の質 (quality of government) を決める中心的な概念で、マクロレベルの多くの指標で良い結果につながると先行研究結果で示されてきた。しかし、政府の公平性が公共サービスの質に対する市民の認識にどのような影響を与えているかについての先行研究は限られている。特に、経済・社会的背景が異なる市民の間で、どのように公平性が公共サービスの質に対する認識に影響を与えるかは分かっていない。本研究では、欧州174地域の56,925人の市民を対象とした欧州政府の質指標データを用いた分析の結果、公平性のみでは公共サービスの質の向上にはつながらない、社会的弱者の間では公平性は公共サービスの質の低下につながることが分かった。これらの結果は、市民が政府の公平性から平等に恩恵を受けてはいないことを示唆している。
公務における政治化、法律尊重主義、革新的態度 (Victor Lapuenteとの共著)
Lapuente, Victor, and Kohei Suzuki. 2020. "Politicization, Bureaucratic Legalism, and Innovative Attitudes in the Public Sector." Public Administration Review 80 (3):454-467.
要約: 先行研究は公共部門のイノベーションを促進する制度的、組織的、個人的な要因を特定してきた。しかし、官僚機構の種類や官僚の属性と革新的な態度との関連は見落とされてきた。本論文では、ヨーロッパ19ヵ国の官僚機構と上級公務員の大規模比較データを用いて、官僚機構における政治的影響力と法律尊重主義といった要因が上級公務員のイノベーションに対する態度とどのように関連しているかを検証した。分析の結果、政治的影響力の強い官僚機構で勤務する、法律学の教育を受けている上級公務員はイノベーションに対する意識が低いことが分かった。
ヤギか狼か?民間部門からの幹部公務員 (Victor Lapuente, Steven Van de Walleとの共著)
Lapuente, Victor, Kohei Suzuki, and Steven Van de Walle. 2020. "Goats or wolves? Private sector managers in the public sector." Governance 33 (3):599-619. doi: 10.1111/gove.12462.
要約: 行政改革により、公共部門における民間部門のマネジメントスキルの活用や、民間部門のバックグラウンドを持つ管理職採用が増えている。こうした動きによって、民間経験者の採用が結果志向、効率性、イノベーションに対する態度等を公共部門に持ち込み、公共部門の業績に良い影響を与えるという意見と、民間企業の経験や公正性、公平性等の官僚機構の中核的な価値観を損なう可能性があるとする意見の間で議論が生れてきた。しかし、数多くの逸話的な証拠はあるが、民間部門での経験が公務員の価値観に与える影響についての実証はまだ限られている。本研究では、欧州18カ国の中央政府の上級公務員を対象としたデータを用い、民間部門での経験を持つ上級公務員ほどより中核的な経営的価値観を持っていることが分かった。しかし、従来の見解とは異なり、民間部門経験は公正性、公平性等の公共的価値観を損なうことはないことが分かった。
官僚機構の性質と公務員の組織コミットメント:ヨーロッパ20ヵ国を対象とした比較研究結果(Hyunkang Hurとの共著)
Suzuki, Kohei, and Hyunkang Hur. 2019. "Bureaucratic structures and organizational commitment: findings from a comparative study of 20 European countries." Public Management Review:1-31. doi: 10.1080/14719037.2019.1619813.
要約: 本研究は「政府の質」研究所の専門家調査データ及びヨーロッパ20ヵ国の上級管理職公務員調査データを用い、官僚制度と公務員の組織コミットメントの関係性を検証した。「善き統治」(グッド・ガバナンス)についてのこれまでの実証研究ではヴェーバー型官僚制度とマクロレベルでの社会経済効果との関係性が検証されている。しかし先行研究では官僚制度の類型と公務員個人の意識や態度との関係については分析が行われておらず、公務員の組織コミットメントの程度やタイプについて国家間で違いがあるかどうかは分かっていない。本研究は、社会的交換理論を用い、ヴェーバー型官僚制度の特徴の一つである公務員の任用・昇進制度の閉鎖性と組織コミットメントとの関係性を分析した。研究結果から、任用・昇進制度の閉鎖性と組織コミットメントとの間で高い相関性が確認できた。
公共部門と民間部門における実績主義に対する市民の認識 (Hyunkang Hurとの共著)
Suzuki, Kohei, and Hyunkang Hur. 2021. "Revisiting the old debate: citizens’ perceptions of meritocracy in public and private organizations." Public Management Review:1-25. doi: 10.1080/14719037.2021.1895545.
要約: 行政学・公共経営においては、長い間、公共部門と民間部門の違いは議論されてきた。これまでの研究結果の積み重ねにより、公共部門と民間部門は様々な点で性格が異なることが分かったきた。しかし、先行研究は1ヵ国を対象とした研究が中心で、複数国を対象とした研究が不足し、実証結果の一般化には限界がある。本研究では、欧州21カ国の市民を対象としたデータセットを用いて、公共機関と民間企業における実績主義(運やコネではなく、努力で成功を収められると思う度合い)に対する市民の認識を比較し、そのようなセクターの違いが国レベルのマクロ要因とどのように関連しているかを検証する。研究の結果、ヨーロッパの大半の地域で、実績主義に対する市民の認識は民間部門の方が公共部門よりも高いことが分かった。特に、国レベルの官僚機構でNew Public Managementが根付き、実績主義の原則が確立されている国では公共部門と民間部門の差は少なく、そうではない国では差が大きいことが分かった。
2)日本の地方自治体を対象とした研究
女性議員・管理職比率とリスク回避型の財政判断について(Claudia Avellanedaとの共著)
Suzuki, Kohei, and Claudia N. Avellaneda. 2018. "Women and risk-taking behaviour in local public finance." Public Management Review 20 (12):1741-1767.
要約: 本研究は日本の764市において女性首長、議員及び公務員管理職比率と自治体の財政判断との関係を分析することを目的とする。研究の結果、地方議会で女性議員比率が高まると公債発行額、公社・公団・公営企業体への投資額は低くなり、リスク回避型の財政判断が行われやすいことが分かった。しかし、女性首長・副首長と女性中間管理職と財政判断との間に統計的に有意な関係は確認できなかった。本研究は女性議員比率が最も低い先進国である日本を対象に女性管理職比率と財政判断についての既存理論の検証を行ったものである。
歳出削減と住民ボランティア活動について(単著)
*2017年度Asia Pacific Journal of Public Administration 最優秀論文賞受賞
Suzuki, Kohei. 2017. "Government expenditure cuts and voluntary activities of citizens: the experience of Japanese municipalities." Asia Pacific Journal of Public Administration 39 (4):258-275.
要約: 世界経済危機に対応するため多くのOECD加盟国政府は歳出削減を実施している。一部の政府は緊縮財政下で公共サービスを維持するための手段として住民のボランティア活動への依存を強めている。しかし、歳出削減が住民ボランティア活動にどのような影響を与えるのかを考慮した上で、そうした政府の住民活動への依存に関して包括的な研究は行われていない。本研究では、604市町村の地域計画課・住民課へのアンケート調査データを基に自治体の歳出削減は住民ボランティア活動を誘発する効果を持つのか、抑制する効果を持つのか分析を行った。研究の結果、自治体の歳出削減は住民ボランティア活動の増加(誘発効果)と関係することが分かった。
市町村合併と人口変化 (Kentaro Sakuwa との共著)
Suzuki, Kohei, and Kentaro Sakuwa. 2016. "Impact of municipal mergers on local population growth: an assessment of the merger of Japanese municipalities." Asia Pacific Journal of Public Administration 38 (4):223-238.
要約: 行政改革の一つの手段として多くの国で自治体合併が実施されている。自治体合併の効果に関する実証研究がこれまでに多く行われているが、合併後の新自治体を構成する旧市町村が合併による効果を平等に受けているかどうかは実証検証が積み重なっていない。本研究は日本において市町村合併が人口動態に与える効果に着目し、合併効果は合併構成市町村内での人口規模によって異なるという仮説を検証する。傾向スコアマッチングを用いた分析結果では、合併構成市町村の中で最も人口規模の大きい自治体以外では市町村合併は人口変化に負の影響を与えていることが分かった。本研究結果により、合併は合併構成市町村間に平等に効果をもたらさず、小規模自治体に対しては大きなコストをもたらしていることが分かった。
住民協働(co-production)を通じた高齢者の孤独と社会的孤立への取り組み(Brian E. Dollery とMichael A. Korttとの共著)
Suzuki, K., Dollery, B. E., & Kortt, M. A. (2020). Addressing loneliness and social isolation amongst elderly people through local co-production in Japan. Social Policy & Administration. doi:10.1111/spol.12650
要約: 高齢化社会を迎えた他の多くの社会と同様に、現代日本では高齢者の孤独と社会的孤立が大きな問題となっている。しかし、緊縮財政の継続と高齢化に伴う財政負担のため、地方自治体はこの問題に対処するにあたっていくつか財政的な制約を抱えている。このため、政策立案者は高齢者の社会的孤立に取り組むため、地域社会との協働も含め、費用対効果の高い方法を模索するようになっている。本論文では、住民協働を用いた費用対効果の高い社会的孤立対策の取り組みとして、日本の2つの自治体の取り組み事例を検討する。